マキシマム・エンターテイメント(MAXIMUM ENTERTAINMENT)のレビューや感想について知りたい......
こういったリクエストにお応えします。
今回は、ケン・ウエバー著「マキシマム・エンターテイメント」という本のレビューについて紹介します。
こんにちは、週末マジシャン・バッザです。
マジック歴25年、会社員のかたわら週末に、施設、イベント、飲み会でマジックを披露するほか、手品講座を依頼される週末マジシャンです。
このような私が、解説していきます。
マキシマム・エンターテイメントは、マジック初心者向けの本では、ありません。
マジックの種明かしややり方が、解説された本ではないからです。
この本は、プロ・アマ問わず、すでにマジックを練習・または人前で披露している人にとって、あなたのマジックを、エンターテイメントとして最大限に引き上げるための指南書です。
ここでは、本書の一部を紹介します。
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基本情報
書名 マキシマム・エンターテイメント(MAXIMUM ENTERTAINMENT) ~マジシャンが一流エンターテイナーになるための方法論~
著 者 ケン・ウエバー
訳 者 田代茂、滝沢敦(編集)
出版社 スクリプト・マヌーヴァ (2015/2/21)
発売日 2015年2月21日
ソフトカバー 309ページ
* マキシマム・エンターテイメント2.0が、2020年12月14日に発行されています。
マキシマム・エンターテイメント レビュー
本書では、マジックの仕掛けや、種明かし、やり方は解説されていません。
それ以外の要素が、解説されています。
演技の教科書と言ってもよいでしょう。
それは、マジックを「エンターテイメント」に引き上げるためのことが、あらゆる角度から伝えられています。
本書では、まず、「エンターテイメント」について定義しています。
- 意識的に人の心を、別の世界に誘うモノ
- そこに気持ちを集中させられること
- 自分が明日生きていくために、やらなければならないことは、一切考えない状態になること
- 観客に「人生に対する新しい見方」を提案するもの
と定義している。
マジシャンにも演出家が必要
本来であれば、どのようなパフォーマーにも演出家は必要です。
演劇や映画と同様に、マジシャンにも演出家は必要であると考える。
しかし、誰でも演出家を見つけられることが出来るわけではない。
本書は、そういった人のために、自分自身が演出家になる手伝いをするものとなります。
ビデオ撮影して、自分の演技を見ること
パフォーマーが成功を収めるために欠かせないことは、最新のマジックのネタでも、メカニックでなく、ビデオに自分のパフォーマンスを撮影し、自分の演技を批判的に分析することです。
もちろん、著者も、自分の演技を見ることは苦痛であることは、十分理解している。
しかし、そうすることによって、自分の潜在能力を、最大限に発揮できると考えています。
分析すべき事柄は、手の動き、体の動き、離し方、目線である。
そして、自分自身を撮影したビデオは、繰り返し見ること。
1回、2回、5回程度見ただけでは、まだ自分自身を、見ているに過ぎない。
自分自身を見ているとは、「オレってスゴいよな」「なかなかうまいことやっている」といって見方しかできない、ということです。
それを通り過ぎてはじめて、現実に起こっていることを、冷静に見ることができるようになる、と著者は、繰り返し見ることの重要性を、説いています。
第2章 基礎事項より
マキシマム・エンターテイメントのP60~第2章の基礎事項の一部をご紹介します。
マジックにおける3つの階層とは?
マジックには、3つの階層があります。
1.パズル
2.トリック
3.驚くべき瞬間
多くのマジックは、第1階層である、「パズル」に含まれています。
第1階層「パズル」
パズルは、観客にとって、そのマジックは、どうやってできるのかは、分からないが、「タネさえわかれば、自分にも同じことができる」と感じるレベルです。
パズルは、ものすごく上手く演ずることができれば、パーティーの人気者になれたり、
マジックショップのカンターの後ろに立てば、そこそこ生活していけるくらいになる、といった階層に当てはまります。
第2階層「トリック」
これが、第2階層の「トリック」となると、
観客からは、マジシャンは、ものすごく、特別な秘密の秘術を身につけていると、賞賛されるレベルである。
圧倒的なプロマジシャンが、このトリックを演じている。
筆者は、この「トリック」のカゲゴリーを肯定的に、受け止めて、トリックは完全かつ驚くべきエンターテイメントの可能性を秘めているとしています。
エリートマジシャンは、このトリックによって、多くの観客を夢中にさせています。
第3階層「驚くべき瞬間」
第3階層の「驚くべき瞬間」とは、完全に、煙にまかれて圧倒される状態のことです。
観客は、そのマジックを、どのようにやっているかを考える余地がない、といったレベルである。
「カップ&ボール」と「レイバン」
本書では、具体的な例をあげている。
「カップ&ボール」は、トリックのカテゴリーに分類される。
それに対して、「驚くべき瞬間」とは、デビッドブレインが、かつて、テレビで演じていた、「レイバン」の演技に、触れています。
子供の手のひらに置いたコインが、デビッドが手をかざしただけで、消えてしまう。
子供は、しばらく茫然とする、まるで魔法にかかったかのように、その場に立ち尽くす。
そして、一言つぶやく「すげぇ」
このカップ&ボールとレイバンを比べた時、1週間後に記憶に残っているマジックはどちらか?
それは、デビッド・ブレインが演じた「レイバン」である。
この、デビッド・ブレインのテレビ番組は、私はリアルタイムで見ていた。そして、本書の、この文章を見た時に、即座に、子どもが「すげぇ」と言っているシーンを思い出すことができた。
著者は、決して、デビッド・ブレインのコピーをすすめている、わけではない。
「驚くべき瞬間」は、あなたがすでに持っている道具でも、生み出すことができる。
マジックを見せた瞬間を、平凡なものにするか、「驚くべき瞬間」にするかは、あなた次第である、と伝えています。
どうなれば、エンターテイメントになるの?または、単なる退屈なパズルになってしまうのでしょうか?
本書には、多方面にわたって、マジックをエンターテイメントに引き上げるための、方法論が語られています。
エンターテイメントで成功を収めるための「6つの鉄則」
第2部第4章には、「エンターテイメントで成功を収めるための6つの鉄則」が紹介されています。
これに従っていけば、失敗しないというガイドです。
この「6つの鉄則」は、エンターテイメントで成功するための、ロードマップあり、エンターテイナーとしての成功するための、指南となる。
ここに書いてあることを基準に、自分の演技を再度、振り返ることをすすめています。
そもそも、エンターテイメントで成功をおさめるための鍵を見極めることは、難しく、つかみどころのない答えを探すようなものでした。
しかし、著者のケン・ウエバーは、トップレベルの演技を何百時間もかけて、分析してきました。
その上で、特に、なぜこの演技がウケるのか?
そういった疑問を突き詰めていった結果により、一つの答えが、この6つの鉄則です。
同一のマジシャンであっても、ときにウケる演技もあれば、ときにはそこまで到達しないといったことも、目の前でに見てきた。
「本物の芸」に関する6つの秘密とは
- 自分のネタをちゃんとマスターする
- 自分の人間性を伝えること
- 自分の演技のどこが、エキサイティングなのかをしっかり伝えること
- ありゆる瞬間を支配すること
- 弱点をなくすこと
- クライマックスにむけて演技を盛り上げていくこと
以上の6つである。
ここでは、その1つである「自分のネタをちゃんとマスターすること」について、紹介します。
「自分のネタをちゃんとマスターすること」について
マジシャンは、不思議を取り扱うエンターテイメントである。
観客には「ちゃんと不思議に思ってもらう」ことが前提としてある。
これが、「なんとなくあやしい」と感じさせるレベルでは、失格です。
それには、マジックの演技で使うムーブや技法は、考えなくても、自然にできるようになることです。
それができた上で、次はステージ上での、動きやセリフの稽古に入る、といった順番になります。
特に重要なことは、シナリオをしっかりと理解しておくこと。
ステージ上で、次は、何を言おうかなどと、迷ってはいけません。
適切な場面で、適切な振舞いやセリフが、でてこなければなりません。
まずは、技法や動き、そして手順全体の練習、最終的には、オープニングからフィニッシュまでの、通し稽古が必要になります。
動きの中には、細部に、行きわたる練習が必要と、著者は説いています。
例えば、カードをケースから取り出して、ケースにカードをしまうところまでも、練習の一部に含んでいるということです。
(これは新しい発見でした、参考になります)
このような練習をすることによって、ちょっとしたことで、本番で、まごつく心配がなくなるからです。
そして、総仕上げの練習では、必ず本番で用意している衣装を着て、練習することをすすめています。
本番で初めて衣装を着るとなった場合、「ここにある」と思っていたポケットが無かった、などと思うことがないようにするためです。
次に、自分の演技のビデオをよく研究することを怠らないこと。
さまざまな角度から、自分の演技を撮影しておくと、振り返るときに役立ちます。
基本的に、大抵の観客は、優しい。
そのため、見えてはいけないものが見えてしまっても、口には出さないでしょう。
しかし、そんなことを繰り返していくうちに、あなたが知らず知らずのうちに、観客の頭の中では、あなたの演技にマイナスの評価をし始めているのです。
そして、自分の得意の得意分野を習得すること。
自分が自信をもって演じられる中で、最強ネタを選ぶようにすること
著者は、エンターテイナーは、スーパーマンであることと例えています。
普段は、温厚で地味に暮らしている人でも、何かをしなければならなくなったときには、普段のクラークケントとは思えないような、能力を発揮してみせる。
エンターテイナーとしての私たちは、他の人々にはない技術や才能があるわけで、それを観客は、見に来るわけです。
そうでなければ、観客があなたを見に来る理由が、なくなります。
自分は、観客の仲間であるという一方で、特別な技術や才能が、自分の内面からあふれ出ることを、しっかりと見せることです。
だからこそ、やる気があろうとなかとうと、徹底的に稽古しなければならない、ということになります。
観客が、舞台上で見たいのは、スーパーマンです。
徹底的に準備をすれば、「自分は無敵だ!」という雰囲気を、楽に醸し出せるようになるのです。
自分の技をしっかり稽古して、無敵の自分を作り上げることが大事です。
ひとたび自分のネタを選んだら、それをキッチリと練習していくに尽きます。
では、自分に一番ぴったりのネタを絞り込むには、どうしたらよいか?
第3部第6章では。「ネタ選び」についても解説しています。
以上、6つの鉄則のうち、1つ目を紹介しました。
第2部では、さらに、6つの鉄則のうち、残りの5つについて、述べています。
第3部第5章のセリフの制作については、書き出すことの重要性を学びます。
セリフの制作の重要性について
第3部第5章では、セリフの制作について述べています。
セリフを紙の上に書くこと、とにかく、書いてみること、です。
著者は、ビジネスとエンターテイメントの両方の世界で生きてきた人物です。
ビジネスでは、紙に書いたときに限って、常にうまくいっていた経験を持つと言います。
それは、エンターテイメントも同様です。
台本を書くことは、「考える」作業が不可欠である。
脳みその中から、一つ一つ言葉を振り絞って書き出す作業が、舞台上で、A、B、Cという順番があるはずなのに、Bの手順を、すっ飛ばしてしまっていないかを、防ぐためでもあります。
迷子にならないためには、セリフを書くというのは、面倒な作業と思わるが、全部の手順を紙に書きだすこととすすめています。
これは、「セリフ」だけでなく、「動き」そのものも書き出すこと。
動きとは、舞台上でお客さんをあげるときには、どちら側に立たせるのか、また、そのときにチェンジング・バッグは、どちらの手に持ってるのか、あるいはどのタイミングで持ち替えるのか、といった、細かい動作にも、全て書くことをすすめています。
台本を書かなければ、演技の細かい部分が抜け落ちてしまう。
細かい部分にこだわるからこそ、ただの「良い演技」と「素晴らしい演技」との差が生まれると言います。
ネタの選び方について
第6章第3部では、ネタ選びについて、触れています。
著者は、世の中の莫大な数があるマジックの、90%はしょうもないネタと言っています。
しかし、そのしょうもないマジックを捨てたとしても、残りの10%だけでも、莫大な数になり、超大型タンカー1隻分にはなると、言います。
そういうマジックをどんど探していき、そうでないものは、捨てることです。
印象的だったのは、この章の終わりには、「足元を見よう」と伝えています。
スゴい現象を求めて、宝探し、いわゆるゴミ集めは止めましょう。
本書を読んでいるあなたは、すでに初心者ではない。
そうなれば、すでに多くの、DVD,書籍、道具などを購入されている。
あなたに合ったネタは、いままで購入したネタの中から再発見しましょう。
かつてあなたを、興奮させて、過去に人を楽しませてきた、たくさんのマジック道具をすでにお持ちであると。
その中から、実際に自分が演じるべきものを、選ぶべきであると締めくくっています。
本書は、他の章では、身なり、声、道具。音響と照明、パフォーマンスなど、全部で7部、21章で構成されています。
大変読み応えのある本です。
本書は、ギッシリと、文字で埋め尽くされています。
人前でマジックを披露した経験があって、自分の演技にさらに磨きをかけたいと思っている人にとっては、大変、有益となる本でしょう。
本書は、マキシマムエンターテイメント2.0バージョンが、2020年に出版されました。
87ページ加筆修正されて、見やすくなっています。
2015年に初版された内容が、好評だったという表れだと考えます。
ここでは、初版のマキシマムエンターテイメントのamazonのリンクを貼っておきます。
最後に
あなたのマジックは、不思議だけど、つまらない・・・と言われないために。
エンターテイメントとしてのマジックを本気で習得したい、と思っている方なら、本書を手に取ると、のめり込んで読み始めることでしょう。
この本には、マジックの種明かしが書かれているのではなく、マジックにおける、心構え、見せ方、演技のやり方、セリフ、練習方法、準備等について、クロースアップであれ、ステージであれ、人前で演技するために必要なことが、全て書かれています。
言ってみれば、マジックに関するエンターテイメントにこだわった、演技全般の教科書であるといえる本です。
この本を何度も読み、実践していくことによって、マジックに対する心構えが変わってきます。
徹底的に、エンターテイメントにこだわり、いかに、相手を喜ばせることできるか、をいつも考えるようになります。
そして、練習することに、意欲的になることと思います。
また、マジックの演出にも、妥協しなくなることでしょう。
あなたは、ただマジックだけができる、他のマジシャンとは違い、「面白い!」、「また見てみたい!」と言われ続けるマジシャンに、変わっていくことと思います。
あなたが、この教科書に書かれていることを、少しずつでも実行していくことによって、今のこの現実とは、違う未来が、待っているかもしれません。
本書は、イラストはなく、びっしり文字だけが書かれていますので、読み続けていくのに根気がいるかもしれません。
でも、書かれている内容が、マジックに関することばかりですので、少なくともマジックに興味を持っているあなたであれば、ドンドンと読み進めていけるのではないでしょうか?
また、値段に関しても、通常のビジネス本よりは、少々、高めです。
ただ、子ども向けでない、一般的なマジック本というジャンルに関していえば、妥当な金額かと、私は思います。
この本の内容を理解し、実践し続けることによって、あなたの演技が、ただマジックで自慢している他の人よりは、はるかに見せ方や演技が、違ってくるでしょう。
エンターテイメントに関する心構えが、しっかりと芽生え、あなたのマジックを、「また、見たい!」と思う人が増えてくることを考えれば、金額よりもはるかに価値ある本だと確信しています。
ぜひ、本書「マキシマム・エンターテイメント」を手元において、何度も読むことをオススメします。
また、マジシャンの思考法を、ビジネスやセールスに応用したいと思っている方、人と意のままに誘導する方法など学びたいと思っている方は、スティーブ・コーエンの書籍を紹介していますので、合わせてご参考ください。
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