私がロープを持って自己紹介をするとみんなが笑った
でも、マジックを始めると・・・!
数年前、ある研修会の最終日前の懇親会にて。
私のグループの自己紹介が終わった。
室内には拍手が鳴り響いていた。
最後は、私の番だ。
この研修の一週間は、目立たない存在だった。
私はこの懇親会の場を、自分の存在感を示すドラマチックな瞬間にしようと決心した。
グループの人たちがあきれる前を、私が自身たっぷりに、ロープをもって歩みを進め、真ん中に立った。
「彼はくだらない宴会芸でもやろうとしているんだ」と、グループ内の誰かがクスクスと笑った。
他の研修生たちも笑った。彼らは皆、ベタなインチキマジックでもするつもりだと確信していた。
「彼は本当にマジックができるの?」と、ある女性はグループ内の人に向かってささやいているのが聞こえた。
「そんなの見たことないよ」と、叫んだ。
「1週間、同じグループだったけど、マジックをするって一度も言ってないさ・・・でも見て見ろよ。これは面白いことになりそうだ」
私はこの状況を最大限に楽しむことにした。
あざけりの中、私は貫禄たっぷりにロープマジックを始めた。
一つの動作をしたとたん、グループ内の一人が、「それ種明かししないとダメじゃん!」とふざけて言うと、研修生たちも呼応するように笑った。
臆することなく演技を続けると
一瞬にして、研修生たちは張り詰めた静けさに包まれた。
まるで魔法にかかったかのように、あざけ笑いは彼らの口元から消え去った。
周りが驚きで、息を呑むのを感じた。誰かが、私が演じるロープマジックの不思議な現象を見て、思わず言った。
「なんで?」
私はすかさず切り返した・・・「練習したから!」
室内にはいきなり、大爆笑の声が響き渡った。
私は夢中で演技を続けた。
目の前で、ウケているにもかかわらず、周りに人がいることも忘れていった。
私は時間も場所も、ウケている聴衆のことも忘れていた。
自分がいるちっぽけな世界は次第に薄れ、ぼんやりとしてきて、現実のものでなくなったように思えた。
マジックの演技だけが現実であり、私を守り、包んでくれた。
完全なる勝利
「以上、ロープマジックでした」と言うと、室内にはいきなり拍手喝采が響き渡った。
気がつくと私は、興奮した顔の同じグループの人たちに囲まれていた。
彼らの興奮といったら!
男性たちは私と握手をし、荒々しく祝福を表し、熱狂的に私の背中をドンドン叩いた。
女性たちは、「スゴい、スゴい」とはしゃいでくれた。
誰もが喜びの声を上げ、矢継ぎ早に質問してきた。
「バッザ!どうしてこんなにマジックができることを今まで教えてくれなかったの?」
「どこで習ったの?」」
「どのくらい習ったの?」
「先生は誰?」
それに対して私は、「一度も先生についたことはないよ」「全部、独学だよ」と答えた。
「私は、みんなを驚かそうと思って、内緒にしていたんだ」
そして、彼らに、マジックを始めたきっかけ、どうやって習得したか、マジックの魅力について、すべてを話した。
夢の続きはまだ終わらなかった
懇親会は、そのまま2次会に突入した。
夢の続きは、まだ終わらなかった。
5~6人に囲まれていた。
私が、テーブルマジックの準備を始めると、「おい、また始まるぞ!」と誰かが言い、もっと人を集めてきた。
スポンジ、カード、コインなど、今まで身につけたあらゆるテーブルマジックを披露した。
周りの人たちもテンションが爆上がりし、目を輝かせている。
私も含め皆、マジックの魅力に包まれていた。
「オレ、楽しすぎて気絶してしまうかも」、「夢じゃないのか?」と声が漏れる。
かつて、ここまで周りから注目されたことがあるだろうか?
時間があっという間に過ぎた。
この研修中の一週間、ほとんど名刺交換をしなかった。
マジックが終わると、誰からともなく私に名刺を差し出してきた。
興味をもっていただいた。
2次会も終わり、私は部屋に戻った。
興奮が収まらない。
ベットに入っても目がギンギンだ。
ほとんど眠ることができなかった。
おそらく、マジックを覚えてからこれまでの人生の中で、これほどドラマチックにマジックを演じる機会はなかっただろう。
すべてのタイミングが合致し、一生忘れられないインパクトのある出来事だった。
次の日、誰もが私の見る目が変わったことを感じた。
私の言動や振る舞いに注目が集まる。
ある特定の分野で目立ったことにより、ほかの点も実際より高く評価されるようになる、いわゆるハロー効果(後光効果)が起こった。
マジックができるようになると、時々このような現象を体験する。
マジックは、人生そのものを楽しくする。